少年は探していた しあわせになるための"何か"を 野を越え 山を越え 少年は歩き続けた ふと少年は見たこともない高い塔を見つけた それは雲の上まで続いているようでその先に何があるのか全く見当がつかなかった 少年は思った 『あの雲の上に行けば何かみつけられるかもしれない』 そして塔をのぼりはじめた 様々な試練が少年に襲いかかった 少年はそれを越えるたびに強くなっていく気がした 少年はとにかく進み続けた そして ようやく雲の上にたどり着いた そこからの眺めは格別だった 『世界にはこんな景色があるんだ』と少年は感動した しばらくそこでその景色を楽しんだ ふと上を見上げると 塔はまだ上まで続いている 上の方は見たこともないきれいな虹に包まれていた 今度はあそこまで登ってみよう 少年はまた塔を登りはじめた そして虹の場所にたどり着いた そこはとてもあたたかく 平和で 彩りに満ちていた 少年は思った 『ついに幸せにたどり着いた』 少年は満足だった そしてそこで幸せな時間(とき)を過ごした しばらくすると風が吹いて 虹が少しづつ消えはじめた 少年は慌てた 『虹が消えてしまったらこの幸せも消えてしまう』 少年は虹をこの場所に留めようと必死だった だが努力の甲斐もむなしく 虹は消えてしまった 少年は不幸だった 『せっかく手にした幸せが消えてしまった』 少年はしばらくその場で落ち込んでいた そして 少年はまた幸せを探し始めた 外をみるとトンビが自由に飛び回っている 少年は思った 『あのトンビは幸せそうだ』 そしてトンビに尋ねた 『トンビさん、どうしたら幸せになれますか?』 トンビは答えた 『そりゃあ、大空を自由に飛ぶことさ』 少年は塔の中を探し回った 塔の中には何でもあった 少年は本や木材を探し出し 空を飛ぶ装置を作った 少年は窓から空へ飛び出した はじめは怖かったが 自由に空を飛ぶ心地良さに少年は感動した 『あのトンビさんの言ってたことは正しかったんだ』 少年は幸せだった 空を楽しんだ だがだんだん疲れてきた 『いつまで飛び続ければ良いのだろう』 少年は空から降りてきて 腰を下ろした 『やっぱり地上がいちばん』 少年はそこに寝転がった 目の前には小さな白い花が咲いていた 少年は尋ねた 『お花さん、どうすれば幸せになれますか?』 花は答えた 『ここでただ咲いていればそれだけで幸せなんだよ』 少年はその場でじっと佇んだ 胸がとてもあたたかくなる感じがした でも少年はどこか満たされなかった 『何をどうすれば本当の意味で幸せになれるのだろう』 『あれ?そういえば…』 少年はあることに気づき 再びトンビと花に尋ねた 『あの、ぼくは今あなたたちに幸せになる方法について尋ねました。 しかし そもそもあなたがたは"幸せとは何なのか"を本当に知っているのですか?』 トンビと花は口をそろえて答えた 『いいや、知らないよ。"幸せ"ってなんだい? ぼくらはただ "飛び" "咲いている"だけだよ』 少年は頭を抱えた 『もうぼくにはわからない』 少年は目指すものがなくなった そして途方に暮れた 『これからどうすればいいのだろう』 少年は無気力だった だが何だか喉が渇いたので 泉に向かい 水を汲んで飲んだ 新鮮でつめたい水は 少年の喉を通り 身体の中へ消えていった 少年ははっとした あれ? 何も目指すものはないのに ぼくは水を飲んで 身体はそれを受け取った トンビと花の言葉がこだまする 『ぼくらはただ "飛び" "咲いている"だけだよ』 そうだ ぼくもまた ただ "生きてる" 少年は走り出した そして野原に寝転んだ 風が少年の頬をなでた 『おかえり』 その響きが何なのか 少年は識る由もない
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